有性生殖
生物には、遺伝子の多様性を生み出し、環境の変化や病気に対して生き残りやすくするために、オスとメスに分化する戦略をとるタイプのものがあります。これを有性生殖といって、私たちホモサピエンスもそのタイプの生物です。
生殖(Reproduction)とは、生物が自分と同じ種類の新しい個体(子孫)をつくり、命のつながりや種族を維持する働きのことです。生殖の仕組みには、大きく分けて「有性生殖」と「無性生殖」の2つがあります。
一般には有性生殖する生物で雌が単独で子を作ることを指すものです。無性生殖が体細胞分裂などによって親の遺伝子をそのまま受け継ぐのに対し、単為生殖の多くは減数分裂を経て卵が作られるプロセスを含んでいるため、生殖細胞(配偶子)を介する有性生殖の一種として分類されます。
その多くは、ミツバチ、スズメバチ、アリ、アブラムシといった小型の無脊椎動物で、彼らは有性生殖と単為生殖を切り替えることができます。脊椎動物でも80種以上で確認されていて、その約半数が魚か爬虫類です。また、飼育下のヘビ、コモドオオトカゲ、鳥、サメのメスで単為生殖が確認されています。
有名なのは琵琶湖のギンブナ(ほぼすべてメス)で、雌性生殖と呼ばれる特殊な単為生殖を行います。繁殖には他のコイ科の魚の精子を刺激(スターター)として利用しますが、精子のDNAは排除されるので、結果として、琵琶湖のギンブナはすべてクローン(もちろんオスが 0 ではないので、正確には多様なクローンたちのモザイク集団)です。
受精した直後の胎児には、男女の見た目の違いはありません。胎児の体内には、のちに精巣にも卵巣にもなれる「未分化生殖腺」と、以下の2つの性管が両方とも用意されています。
もし、何のシグナルも送られなかった場合、身体は自動的にミュラー管を発達させ、ウォルフ管を消滅させます。つまり、何もしなければ自然と「メス」の身体へと育つようにプログラムされています(これを生物学では「デフォルト(初期値)はメス」と表現することがあります)。
胎児がオスになるためには、強力なブレーキと方向転換が必要になります。
AMHやテストステロンが分泌されるか否かのスイッチは、Y染色体上のSRY遺伝子の有無という内部因子に委ねられていて、母体の温度や栄養などの外部環境因子による影響を受けることはありません(100%遺伝的(染色体構成)に決定されます)。ただし、分泌された後の「量や作用の正確さ」は、化学物質(外因性内分泌攪乱化学物質=いわゆる環境ホルモン)や母体ストレスといった環境因子によって影響を受けることもあります。
ちなみに、男性にも乳頭(乳首)があるのは、「オス化」の命令が下る前の、共通の基本形(メス型)の段階で乳頭の原型がすでに作られているためです
人間社会では制度上、性の区別が存在しますが、性の多様性や脳科学の研究では、性はオス・メスの二分法ではなく、グラデーション(連続体、境界はあいまい)であると考えられています。
人間は視覚情報に強く依存するため、性別というものを目に見える明らかな区分とみなしがちですが、視覚情報のみに依存すると物事の本質が見えなくなります(例えばオマール海老(ロブスター)はエビではなくザリガニの仲間、タラバガニはカニではなくヤドカリの仲間です)。
世の中には、明確な区分が存在していないにもかかわらず、全体をいくつかのクラスターにグループ分けするとともに、個々に名前をつけてカテゴライズしたものが多々あります。下の図は、本来連続的に拡散したもの(左図)でも、見せ方によっては恣意的に3つのグループがあるかのように見せることができる(右図)・・という例です。
性差も同様、そもそも有性生殖自体が多様性を生み出すことを目的としているわけですから、掛け合わせによるバリエーションを広げるべく遺伝な距離をとった2大クラスター(群)ができていると考えるのが自然でしょう。2つの山の中間に位置するケースは確率的に低いので、社会的にはマイノリティーということになりますが、個体差は連続的、クラスター間に明確な境界はありません。
実体区分があってそれに名前がついたのではなく、言葉が存在を喚起した。オスとメスという言葉の存在が、そのような実体が存在するかのような観念を共同幻想化させたといえます。
人種(白人、黒人、黄色人種)という概念も同様、生物学的区別はなく遺伝子分布は連続的です。さらに言えば、日本で「◯◯障害」と呼ばれるもののうち、英語では 末尾が Disorder となるもの(ASD, ADHDなど)についても、あくまで「操作的診断」による統計上の値から「その傾向がある」とされるだけで、明確なバイオマーカーをもって診断されるものではありません。
私たちは、言葉によって再構築された「擬似現実(共同幻想)」を見ているに過ぎない・・という認識は、思考を俯瞰的に成熟させる上で重要な観点です。
以下の話題は、文脈抜きで切り取られると、いろいろと誤解を招くので、話題の項目のみ記載して、具体的なことは講義においてのみお話しします。