#author("2026-08-27T17:14:31+09:00;2026-08-27T13:43:49+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko") #author("2026-08-27T17:21:40+09:00;2026-08-27T13:43:49+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko") *Sexual Reproduction 有性生殖 ~ 生物には、遺伝子の多様性を生み出し、環境の変化や病気に対して生き残りやすくするために、オスとメスに分化する戦略をとるタイプのものがあります。これを有性生殖といって、私たちホモサピエンスもそのタイプの生物です。 ~ ~ **生殖とは 生殖(Reproduction)とは、生物が自分と同じ種類の新しい個体(子孫)をつくり、命のつながりや種族を維持する働きのことです。生殖の仕組みには、大きく分けて「有性生殖」と「無性生殖」の2つがあります。 ~ ***有性生殖 -オスとメス(雌雄)が関わり、精子や卵などの「生殖細胞」が合体(受精)して新しい個体をつくる方法。 -両親の遺伝子が混ざり合うため、子孫にさまざまな個性(多様性)が生まれます。環境の変化に強いというメリットがあります。 -例えば、ヒトやイヌなどの動物、アサガオやサクラなどの種子植物。 &small(ただし、花見で有名なソメイヨシノは江戸時代末期に、大島桜と江戸彼岸桜を交配して作られた人工的な品種で、接木でしか増やすことができません。つまり、日本中に咲くソメイヨシノはすべてクローンです。); ~ ***無性生殖 -受精の仕組みに関わらず、親の体の一部がそのまま新しい個体になる -1個体だけで短時間に数を増やすことができる -基本的に、子は親のクローン -方法 --分裂:体が2つ以上に分かれる(ゾウリムシ、アメーバなど) --出芽:体の一部に芽が出て、それが大きくなって独立する(ヒドラなど) --栄養生殖:根・茎・葉などの栄養器官から新しい個体ができる(ジャガイモなど) ~ ***付記:単為生殖 一般には有性生殖する生物で雌が単独で子を作ることを指すものです。無性生殖が体細胞分裂などによって親の遺伝子をそのまま受け継ぐのに対し、単為生殖の多くは減数分裂を経て卵が作られるプロセスを含んでいるため、生殖細胞(配偶子)を介する有性生殖の一種として分類されます。 その多くは、ミツバチ、スズメバチ、アリ、アブラムシといった小型の無脊椎動物で、彼らは有性生殖と単為生殖を切り替えることができます。脊椎動物でも80種以上で確認されていて、その約半数が魚か爬虫類です。また、飼育下のヘビ、コモドオオトカゲ、鳥、サメのメスで単為生殖が確認されています。 有名なのは琵琶湖のギンブナ(ほぼすべてメス)で、雌性生殖と呼ばれる特殊な単為生殖を行います。繁殖には他のコイ科の魚の精子を刺激(スターター)として利用しますが、精子のDNAは排除されるので、結果として、琵琶湖のギンブナはすべてクローン(もちろんオスが 0 ではないので、正確には多様なクローンたちのモザイク集団)です。 ~ ~ **生物種とオス・メスの決定プロセス -哺乳類(XX , XY) デフォルトはメス(XX)。発生の過程で Y染色体のシグナルと男性ホルモンを浴びることでオス化する。 -鳥類(ZZ, ZW) 哺乳類と同様に性染色体による遺伝的メカニズムで決定されるが、哺乳類とは異なるZW型という仕組み(オス:ZZ、メス:ZW)をもち、受精した瞬間にZZ(オス)かZW(メス)かが決まる。同型(ホモ)と異型(ヘテロ)の関係が哺乳類とは逆で、オスの染色体が 同型(ZZ)で、W染色体 女性ホルモンが働いてメス化する。 -爬虫類(ワニ、ウミガメなど) --性染色体ではなく卵が育つときの「温度」によって決まる仕組み(温度依存型性決定:TSD)を持つ種類が多く存在(例:カメは温度が高いとメスになる)。 --一部のトカゲやヘビなどは、哺乳類や鳥類と同様に性染色体(XY型やZW型)で性が決まる(遺伝型性決定) -魚類(クマノミなど) 生まれたあとも、周囲の環境や群れの状況に応じて大人になってから性転換する種が多い。 ~ ~ **ホモサピエンスのオスとメス ***発生初期は「メス型」 受精した直後の胎児には、男女の見た目の違いはありません。胎児の体内には、のちに精巣にも卵巣にもなれる「未分化生殖腺」と、以下の2つの性管が両方とも用意されています。 -ミュラー管:子宮や卵管(メス)になる -ウォルフ管:精管や精嚢(オス)になる もし、何のシグナルも送られなかった場合、身体は自動的にミュラー管を発達させ、ウォルフ管を消滅させます。つまり、何もしなければ自然と「メス」の身体へと育つようにプログラムされています(これを生物学では「デフォルト(初期値)はメス」と表現することがあります)。 ~ ***Y染色体とホルモンによる「オス化」 胎児がオスになるためには、強力なブレーキと方向転換が必要になります。 -SRY遺伝子の起動 オスの持つ「Y染色体」にある SRY遺伝子 がスイッチとなり、未分化生殖腺を「精巣」へと変化させます。 -抗ミュラー管ホルモン(AMH)の分泌 作られた精巣から「メス化を止めるホルモン」が分泌され、子宮になるはずだったミュラー管を消滅させます。 -テストステロン(男性ホルモン)の分泌 さらに精巣から大量の テストステロン が分泌され、ウォルフ管を発達させて精巣や陰茎などオスの身体を形作っていきます。 AMHやテストステロンが分泌されるか否かのスイッチは、Y染色体上のSRY遺伝子の有無という内部因子に委ねられていて、母体の温度や栄養などの外部環境因子による影響を受けることはありません(100%遺伝的(染色体構成)に決定されます)。ただし、分泌された後の「量や作用の正確さ」は、化学物質(外因性内分泌攪乱化学物質=いわゆる環境ホルモン)や母体ストレスといった環境因子によって影響を受けることもあります。 ちなみに、男性にも乳頭(乳首)があるのは、「オス化」の命令が下る前の、共通の基本形(メス型)の段階で乳頭の原型がすでに作られているためです ~ ~ **人間社会における性別 人間社会では制度上、性の区別が存在しますが、性の多様性や脳科学の研究では、性はオス・メスの二分法ではなく、グラデーション(連続体、境界はあいまい)であると考えられています。 人間は視覚情報に強く依存するため、性別というものを目に見える明らかな区分とみなしがちですが、視覚情報のみに依存すると物事の本質が見えなくなります(例えばオマール海老(ロブスター)はエビではなくザリガニの仲間、タラバガニはカニではなくヤドカリの仲間です)。 世の中には、明確な区分が存在していないにもかかわらず、全体をいくつかのクラスターにグループ分けするとともに、個々に名前をつけてカテゴライズしたものが多々あります。下の図は、本来連続的に拡散したもの(左図)でも、見せ方によっては恣意的に3つのグループがあるかのように見せることができる(右図)・・という例です。 #image(images/Categorize.gif) 性差も同様、そもそも有性生殖自体が多様性を生み出すことを目的としているわけですから、掛け合わせによるバリエーションを広げるべく遺伝な距離をとった2大クラスター(群)ができていると考えるのが自然でしょう。2つの山の中間に位置するケースは確率的に低いので、社会的にはマイノリティーということになりますが、個体差は連続的、クラスター間に明確な境界はありません。 実体区分があってそれに名前がついたのではなく、__[[''言葉が存在を喚起した''>Language]]__。オスとメス(男と女)という言葉の存在が、そのような実体が存在するかのような観念を共同幻想化させたといえます。 人種(白人、黒人、黄色人種)という概念も同様、生物学的区別はなく遺伝子分布は連続的です。さらに言えば、日本で「◯◯障害」と呼ばれるもののうち、英語では 末尾が Disorder となるもの(ASD, ADHDなど)についても、あくまで「操作的診断」による統計上の値から「その傾向がある」とされるだけで、明確なバイオマーカーをもって診断されるものではありません。 私たちは、言葉によって再構築された「擬似現実(共同幻想)」を見ているに過ぎない・・という認識は、思考を俯瞰的に成熟させる上で重要な観点です。 ~ ~ ***ジェンダーと社会 以下の話題は、文脈抜きで切り取られると、いろいろと誤解を招くので、話題の項目のみ記載して、具体的なことは講義においてのみお話しします。 -狩猟採集社会におけるに男女関係 --男は狩り、女は採集という固定的な性別分業の定説は、近年の考古学や人類学の研究によって見直されつつあります。 --役割の違いはあるものの、当時の男女関係は比較的平等的で対等なものであったと考えられています。 --私有財産や固定的な階級がなかったため、現代のような男女不平等は存在しなかったと考えられています。 --太古の神話でも、全体としては男性神と女性神の区別は明確ですが、例えば、ツクヨミ(月読命)は太陽神アマテラスの弟(または妹)とされますが、記紀の本文中に明確な性別の記述はありません。また、天地開闢の最初に現れたアメノミナカヌシ(天之御中主神)などの「別天神」や「神世七代」の一部は、男女の対にならず単独で現れた「独神」とされ、性別のない(あるいは超越した)存在として扱われています。 --太古の日本神話でも、多くは男性神と女性神の区別が明確ですが、例えば、「独神」と呼ばれる「パートナーや性別を持たず、単体で現れた神様」が存在します(造化の三神など)。ツクヨミ(月読命)も太陽神アマテラスの弟または妹とされ、記紀の本文中に明確な性別の記述がありません。 -農耕社会移行後の男女関係 --私有財産の発生と父系社会化 --多産への要求と女性の「家内化」 --重労働(農具)の導入と役割の固定化 --階級・国家の誕生と暴力の制度化 -男性の思考で作り上げられた文明社会について -現代社会における「女性活躍推進」の背景と現状 -婚姻制度、婚活・マッチングアプリについて -生物多様性の原点に立ち返って「生き延びるためのしくみ」を考える ~ ~ **APPENDIX ***関連ページ -__[[Diversity]]__ ~ ~